チラリと見える赤い糸(2)

チラリと見える赤い糸(2)

【前回のあらすじ】
初夏の陽気の中、主人公の「私」は地域のスポーツレクリエーションに参加する。緊張と高揚を胸に、ジーンズの下にはコスプレ用の赤いブルマーを忍ばせていた。
誰にも言えない秘密を抱えながら競技に臨み、不安と興奮の中で過ごす。フォークダンスでは赤い短パンをインナーに着た男性と出会い、思わぬ共感に心が和らぐ。
葛藤を抱えつつも、新たな自分への一歩を踏み出そうとしていた。

※前回のラスト二行は、今回の冒頭に再掲しました。
メインタイトルが『チラリと見える赤い糸』、サブタイトルが『ジーンズと秘密の境界線』となります。

目次:

チラリと見える赤い糸――ジーンズと秘密の境界線

第一章 揺れる夏(その2)

お弁当を広げる。喉が渇いて水を飲んでも、一時の清涼感はすぐに消えてしまう。

すると、先ほどの男性が近づいてきた。ジーンズから覗く赤い短パンが鮮やかに映った。

「こんにちは。今日、かなり暑いね。無理していないか、心配してたんだけど……」

「こんにちは。最初は暑さに負けそうになって、……ジーンズを脱いでブルマーになろうかと思ったんです。何とか踏みとどまりましたけど」

「えっ、ブルマーなの。短パンじゃなくて」

彼が驚いた顔になる。

「……はい。実は今日、生まれて初めて穿いたんです」

「いや……凄いというか、ビックリしたというか……」

頬が赤らむのを、私は感じている。

「ジーンズの隙間から見えるブルマーって、なかなかの勇気だと思うよ」

「ありがとうございます。どうしても、ジーンズを脱ぐのは抵抗があるんです。人前ですっかり晒してしまうのは……」

私が苦笑混じりに微笑むと、彼も話した。

「僕も服装で迷っていて、今日は少しだけ大胆になってみた。丈の短い、小中学生が着るような短パンなんて、普段穿かないからね。君の姿を見て、自然と嬉しくなった」

彼は照れ笑いを浮かべながら、チラリと覗く短パンにさりげなく触れた。

「そう言ってもらえると、なんだか不思議と安心します。小さなレクリエーションの場だから、自分を少しだけ出せるのかな」

「そのとおりだよ。たとえみんなの目が気になっても、自分らしさを忘れなければ、意外と周りも普通に受け入れてくれるよ」

「私も恥ずかしさや不安もあったけれど、こうして同じような格好の人がいて、お話ししていると、心が軽くなりますね」

彼の手が何気なくジーンズのボタンに触れていた。私も目を細めて、ジーンズのボタンを弄んでいた。

「だけど暑くて、本当は僕も脱ぎたくてたまらないんだ。でも短パン姿になるのは恥ずかしいから、脱がない」

うっすら汗をにじませる彼の表情は明るかった。一緒にボタンから手を離す。微笑む彼につられて、私も微笑む。

「私も脱ぎません」

下半身が、青いデニムに覆われている喜びをかみしめた。

ふたりでお弁当に手を付けた。

「どうして、丈の短い短パンを穿いてきたんですか」

私は思い切って聞いてみた。

「小学生の頃、夏になると日常的に穿いていたんだ。最近ふと懐かしくなって、通販で取り寄せてみた。このレクに参加すること、誰にも話していなくて。大人になって、当たり障りのない服しか着ないから、普段を忘れて試すにはいい機会かなと。本当は、ここに着いたらジーンズを脱ぐつもりでいたんだ。ところがいざとなると、怯んじゃって。結局ジーンズは少しだけ下げて、短パンを見せることにした。君に会えたのもそのおかげだし、これでよかったのかもね」

彼は改めて、短パンの感触を確かめていた。

「その気持ち、何となく分かります。コスプレ用にブルマーを買っていました。なのに、着るチャンスがなくて。今日のレクなら、違う自分になれるかなって。未知の環境で、知り合いもいないし。それでも、ジーンズは脱げないんです。あなたと同じで、暑いのに恥ずかしくて。チラ見せするのが精一杯」

「チラッと見えるブルマー、いいと思うな」

「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます」

顔が熱くなるのを感じた。私は視線を少し逸らし、知らず知らずのうちにジーンズのウエストに触れていた。そこから覗く赤い生地の感触を、指先でそっとなぞる。

午後の競技が始まり、私と彼は玉入れに参加した。

私は素早くしゃがみ、両手いっぱいに玉を抱えた。掛け声とともに、勢いよく投げる。

かごに届かず、白い玉がコロンと繰り返し地面に落ちた。

何回もしゃがんで拾い、投げる。

そのたびに、ジーンズのウエストがずれていくのがわかった。

片手で引き上げようとするが、次々と玉を投げる流れに飲み込まれる。

もう自分の格好や、それとなく感じる周りの視線も、気にしてる暇はない。

ふと横を見ると、彼も同じように汗を拭いながら、無心に投げていた。

彼のジーンズのウエストから、赤い短パンが覗いている。

目が合った瞬間、思わずクスッと笑ってしまった。

「やっぱり、脱いだほうが動きやすいかな」

彼が冗談めかして言う。

「そうですけど……私は無理かな」じわりと汗ばむ身体を感じながら、苦笑した。

周囲の視線を意識すればするほど、決断できない。

一方で、しゃがむたびに腰のあたりがじっとりとして、不快感がじわじわと増していく。

彼も同じ気持ちのようだった。

実際、気温は高いのに長ズボンの人が多く、スパッツやハーフパンツ、丈の長い短パンの人は少なかった。

休憩の時間に入った。

隣のグループの男性が、大きくジャージの袖をめくっている。別の女性グループは、ジャージのズボンを膝までまくっていた。

「今日は暑いね!」休憩している人たちの声が耳に入る。

近くを通りかかった別の女性が、ふと足を止めた。

「あれ? なんか二人とも、脱ぎたそうな顔してるよね」

「そんなことないです!」

私はとっさに返していた。どうしてそう言ったのだろう。

腰まわりが汗で湿り、重たく感じられる。こもった熱は逃げることなく、体温と一体化しているようだった。

日陰に腰を下ろすと、ウエストを直すはずだった指先が、ボタンを外そうとしていた。

汗ばむ指が、金属のヒンヤリとした感触を捉える。

わずかに力を入れれば、簡単に外れてしまう。

それなのに、指はためらいがちにボタンの縁をなぞるだけだった。

心臓が早鐘を打つ。

外せば楽になる。

でも、本当に外してしまっていいのか?

脱ぐ瞬間を誰かに見られていたら?

もし、驚いた顔をされたら?

そんな考えが頭をよぎると、指先は動けなくなる。

ふと隣を見ると、彼も同じようにボタンに触れていた。

指先が揺れ、迷いの色が見える。

視線が合った瞬間、私と彼は苦笑した。

もし私が家で普段穿いているような、普通のレディース向けショートパンツを穿いていたら…。

彼も、もう少し丈のあるショートパンツなら、とうにジーンズを脱いでいるだろう。

暑い。

もう限界だ。

ジーンズが張り付いて、熱を閉じ込める檻のようだった。

ボタンを外して、ファスナーを下ろせば、どんなに楽だろう。

でもーー。

恥ずかしい。

ブルマー姿で人前に立つことを考えた途端、背中にじわりと別の汗がにじむ。心臓がドキドキして、喉が渇く。

「一緒に、脱いじゃおうか」

彼がぽつりとつぶやく。

私はドキリとした。同意したかった。

焦点は、指先のボタンに絞られている。

沈黙の数秒間に、昼食時のことが思い返された。

小さく首を振り、フッと笑う。

「……やっぱり、ダメですよね。それに……」

「それに?」

「短パンが少しだけ見える、あなたのデニムコーデ、カッコいいです」

「えっ」

彼は一瞬目を見開くと、下がっているジーンズと短パンに視線を向けた。

次いで顔を上げ、目を空へ泳がせる。

しばしの沈黙が再び訪れた。

愛おしさに満たされて、私は見守っている。

彼が静かに微笑み、私を直視した。

「ありがとう。まさか、君から……。昼休みのことを思い出した。今も、脱ぎたくてたまらない。でも恥ずかしい。短パン姿になることと、君にカッコいいと言われたことが。だから、脱がない」

彼は指先をそっとボタンから離すと、照れながらウエストを直す。

私も同じようにウエストを直す。白い歯がこぼれる。

――もう、今日は脱がない。

木陰のベンチへ移って腰を下ろすと、ようやく風を感じることができた。

火照った肌を撫でる風は、思った以上に心地よかった。

ゆったりくつろいでいる彼に安心する。

「少しは解放できそうですね」

「そうだね」

ジーンズは相変わらず肌に張り付いている。

けれど、もう気にしないと決めたら、布地の一部に過ぎない。風さえ吹けば、それで十分だった。

とりとめもない話をしつつ、ボーッとしていた。遠くからアナウンスや歓声が聞こえる。

「涼しくなってきましたね」

「君といると、特に」

「あらっ……」

今はただ、倦怠感に身を任せたかった。

日が傾き始めている。もうすぐ始まる閉会式を前に、自撮り棒を取り出して記念写真を撮った。スマホの画面に映ったのは、はにかむ私と彼の姿だった。ウエストラインから、赤い布地が顔を出している。ふたりのジーンズのボタンが、夕日に反射して光っていた。

閉会式が始まる頃には不快感も和らいで、気持ちも落ち着いてくる。

「最後にちょっとだけ……」

彼がジーンズのウエストを少し引き下げる。横にいる私も、ジーンズを少し下げる。互いの姿を見て笑みを浮かべる。

「今日はこのくらいが限界だったね」

「でも、今度は……」

私の言葉に、彼はいたずらっぽく笑った。

「今度は、もうちょっと大胆になれるかな」

私は一瞬戸惑いながらも、ふっと微笑んだ。

「うん。そのときは、もう少しだけ勇気を出してみます」

夕焼けに染まるグラウンドの向こうで、次のレクリエーションの案内が聞こえた。私たちは自然と視線を交わし、小さくうなずいた。

帰り道。

ジャージを羽織っていても風が心地よい。フォークダンスで彼と握った、手の温もりを思い出す。交差点の赤信号で立ち止まった。開いていた掌を握りしめる。

青信号に変わり、歩き始める。今日は特別な第一歩だ。薄暮の空の下、家路を急ぐ。

きっと、また会える。そして、今度こそ――

(第二章に続く)

※物語の構想・展開は、次のAIとの協働によります。

  • ChatGPT
  • Claude
  • Gemini
  • Grok
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